以前にも暗緑色のビロード状の貼地が擦り切れたので現在の焦茶色に貼り替えたり、へたってきた座のクッションを補強したりして何度も修理したので、おそらく新しい椅子を買える以上の費用がかかっているのだが、この椅子と共に過ごした時間の長さを考えるとまだ見捨てる気にはならないもちろん今ではもう、子供たちも大きくなったので「グルグル」ごっこで喜んだりはしないのだが、彼らがごく幼い頃の記憶が椅子の呼び名となって定着しているのは、わがことながら一つの家族の歴史として味わい深い。
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「グルグル椅子」、とこの椅子を呼ぶたびに僕も妻も、そして子供たちも、それが呼び名にふさわしくさかんにグルグル回された時代の記憶を心のうちのどこかでかすかに呼び醒ましている。つまり、この呼び名の中には一つの家族の歴史が木霊しているのだ。もしこの椅子を買い替えたとすれば、新しい椅子がたとえ似たような形の回転する椅子であっても、昔からの呼び名は消え、それと共にこの木霊も消えるのではないか。そんな気がするので、ぼくは自分の身体への馴染みによる愛着からばかりではなく家族の歴史への感傷的な思いからも、修理費のかさむ「グルグル椅子」をここ当分は使いつづけるつもりになっている。